力は奪う。

力は傷付ける。

力は守る。

何かを傷付ける覚悟はできている。大切な人を守れる力が、欲しい。





■ ■■オモイ=チカラ■■ ■



曇り空の中から地面に向けて一本の光の筋が差し込んでいる。
きっとこの薄暗い雲達を薙払えば、爽やかで美しい世界が広がるのだろう。
しかし未だに空を覆っている雲達は、地を暗くしてその場所を動こうとしない。


僕が空ばかり見上げていたのを見兼ねてか、青々とした木が話しかけてきた。


「何してんだよ、空には鳥一匹も飛んでねぇんだぞ」


よく見てみると、木の幹に男の人が寝そべっている。
金髪で碧眼だが、最初に会った穏やかな青年とは全く違った雰囲気である。
魅力的な筋肉の付き方をしていて、長身のようだ。
目は伏し目がちでどこか忠実な雰囲気を持ち合わせている。


「ここには自然がたくさんなのに、鳥は飛んでないんですか?」


男を見上げる。
煙草を咥えたその男は、ニッと口許を緩めた。


「こんなシケた空飛びたいっつー物好きな鳥なんかいないだろ」


確かに、と頷いた。
薄い霧が晴れたと思ったら曇りだして雨が降ってまた曇って。
今はその薄暗い雲の中に一筋の光が通るだけ。
僕はどうにかしてこの黒い雲達を追い払いたいのに。


「ここは何なんですか?」


僕はここに来て初めて会話がきちんと成立するということに、心なしか安堵感を覚えていた。


「さぁ?自分の胸に手を当てて考えてみろよ」


男は楽しそうに微笑んでいる。
答えに皆目見当がつかないので、質問を変える。


「貴方はどうしてここにいるの?」


「さーな、自分の胸に手ぇ当てて考えろって」


男は悪戯っぽく笑って僕を見下ろしている。
試されているのだろうか?
しかし僕にはやはり見当がつかなくて、質問を変える。


「貴方の欲しいモノは?」


男はニッと無邪気に微笑んだ。


「俺は、大切な人を守れる力が欲しい」





大切な人―?






『イキタアカシ』


『ヌクモリ』


『ウシナッタモノ』


『タイセツナヒトヲマモルチカラ』





『    』





「…あの、ここはもしかして僕の…」


尋ねようと木の幹に顔を向けた時には、彼はもう姿を消していた。
いつの間にか空は晴れ渡っていて、温かな空気が僕を包んでいる。



僕は気付いた。

ここが何なのか。

彼らは何故ここにいたのか。

僕は見つけたんだ。




答えを。








全ての事物に、意味の無いものなどない―。


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