天に在りては、願わくば比翼の鳥となり

地に在りては、願わくば連理の枝とならん―。





■ ■■道■■ ■





答えを見つけた途端、曇っていた空が晴れ始めた。
心も晴れやかになっていく。

辺りを一周見回すと頭の中で軽やかな声が響いた。


“な、自分の胸に手ぇ当ててみろって言ったろ?”


なるほど、確かに。
僕は心の中でそう答えて笑った。



軽い足取りで少し先へと歩き始めると、前方の緩やかな丘が目に入った。
頂上の大木が存在感をひときわ放っている。
少しずつ足を進めると、木の幹に人影が見えた。


(デジャヴだな、少し前に木の根元で少年を見たや…)



視線の先の人影は動こうとはしない。
もう少し近寄らないとその人影が何者かさえ見分けられない。

だけど僕にはわかる。

答えが見つかったから。


僕の欲しいモノは―






「   」





声が上手く出ない。
次の瞬間、僕は前のめりになりながら必死に駆け出していた。



「兄さん……ッ!!!!」









兄さんは優しく僕を抱き締めてくれた。
涙で顔はよく見えないけど、兄さんはきっと微笑んでる。



「兄さん、僕…」



「―わかってるよ、アル」



兄さんの声はとても優しかった。
言いたい事は沢山あったのに、頭の中は空っぽで上手く話ができない。
きっと今言わないといけない言葉なのに。
僕は涙を手の甲で拭ってやっとのことで声を振り絞った。



「迎えに行くから―」









「迎えに行くから、待っててね…」





兄さんが幸せそうな笑顔を浮かべたように見えた。


















目が覚めた時には、病院のベッドの上だった。
傍の椅子に腰掛けている黒髪の軍人が、ベッドに肘を付いて寝息を立てている。
この顔には見覚えがある。
片方の目を覆った黒い布はどこか彼の精神を反映している気がする。




「…何の夢、見てたんだっけ……」




頭はすっきりしない。
だけど心は晴れ晴れとしている。




僕は迷うことは無いだろう。
遠回りをするかもしれない。
困難が待ち受けているかもしれない。
でも僕は欲しいモノを得る為に、歩き続ける―。




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冒頭部は白楽天の「長恨歌」より


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06.10.26