周りに何人かの人の気配がした。
クスクスと嘲る様に笑う声が聞こえる。

突然『パンッ』と小気味良い銃声が響き、身体をビクリと強張らせた。
更にクスクスと声がする。
火薬の匂いが鼻に届いた。


「暴れたら駄目だからな」








■ ■■銃・従・10■■ ■




「鋼の、ここは一体…」


「さぁ?当てることができたら教えてやっても良いぜ」


まるで年齢を尋ねられた女性のように軽く言う。
椅子に座らされ後ろから胸元に手が滑ってきて、撫で回されると背中がゾクリと引きつった。
冗談じゃない、どうしてこんなことになっているのだ。

このままだと私の死体は全裸で血と精液にまみれているんじゃないか、と最悪の展開さえ予測できた。




「…鋼の」


声は震えなかった。
唇に柔らかい何かが当たる。
よく知った感触。
鋼のは私にキスをしたようだ。

『パンッ』と音が鳴る。
同時に視界が真っ白になった。






事態を飲み込むのに10秒程の時間がかかった。
目が慣れてくるまでに数秒、今おかれている状況を理解するまでに数秒。


目の前にはいなくなったはずの皆と、アルフォンス。
豪華な食事。
美味しそうなケーキ。
皆の手の中にあるクラッカーの中身が床に垂れかかっている。


「ジャスト0時」


鋼のが明るい声を出した。
皆私を見てニコニコと微笑んでいる。


「ハッピーバースデイ、大佐」


声を揃えて言う皆に、呆気に取られて何も言えなかった。
さっきまで不安や焦り、恐怖を感じていたなんて実に馬鹿馬鹿しい。


「大佐、マジでビビってんだもん。かなり笑える」


からかう様な表情で私を見ている。
むしょうに鋼のの顔を殴りたくなった。


「ホント、雨の日に捨てられてる猫みたいでしたよ」


「言ってろ、馬鹿どもが」


溜め息が漏れる。

馬鹿じゃないのか。

ふざけた部下を持ってしまったものだ。


「そういえばヒューズからもタイミングよく電話がかかってきたな」


思い出した様に呟くと鋼のが苦笑を浮かべた。


「縁起の悪い冗談言うなよ」




縁起の悪い?


ふとテーブルの上に乗った写真立てが目に入った。
ヒューズの写真が入っている。




あぁ、この笑顔の写真はよく覚えている。

確か、遺影に使ったやつだ。




背筋にゾクリと寒気が走った。







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