「…は、がね…の?」


自分の声が震えていないことに、安心した。


「何故君は急にいなくなったんだ?」


鋼のは私を見て楽しそうに微笑んだ。
遊びを楽しむような、そんな無邪気さを含んでいる。


「大佐、カエルの神隠しって覚えてる?」


「…あ、あぁ」


話を急に変えられて上手く理解できない。
ただ鋼のの言葉によって、先程まで私の脳内を占拠していた『カエルの神隠し』が意識下に引き摺り出された。






■ ■■真相・深層■■ ■





「一番小さい蛙、小さい蛙、普通の蛙、大きい蛙、一番大きい蛙。カエルの家族はある日突然、神隠しに遇う。犯人は、最後に残った蛙」


あぁ、そうだ。
だから私は無意識にハボックを疑っていた。
一番大きいハボックが犯人なのだと。
だが私の目の前にいるのは、紛れもなく鋼のである。


「最後に残ったのは一番小さい蛙だよ」


無邪気に微笑む鋼のは、悪魔のようにも見えた。
鋼のの背後の電灯がチカチカと光る。
あぁ、そろそろ新しい電灯と交換しなければならないな。


「幼い順に姿を消していく」


「ぇ…?」


頭が回らなくて、間抜けな声を出した。
意図が汲み取れない。


「一番小さい蛙は、お祖父さんなんだ。だから一番年上。一番小さい蛙が犯人だ」



フッと目の前が暗くなった。
鋼のの背後の電灯が切れたのだ。
鋼のが私に詰め寄ってくる。
私も後退りをすると、本棚に背中がぶつかった。
私は眉を潜める。
鋼のは目を細めて微笑んだ。


「俺はさぁ、大佐が大好きだからすぐには殺さない」


「殺した…のか?他の奴を。何故そんなことを…」


声が震えてしまいそうだ。
目の前の鋼のから目を逸らせない。


「アンタのそういう顔が見たかったから」


ニコリと微笑んでキスをくれる鋼のは、いつもの鋼ののように見える。
ただ言っている事がおかしいだけで。

全身に鳥肌が立つ。

頭の中で警戒音が鳴り響く。




首に腕を回され、耳に舌を這わせられる。
こんな非常時でもピクリと反応する自分の身体に、情けないを通り越してむしろ称賛を与えたいくらいだ。

鋼のは私の耳に熱中しながらポケットから一枚の薄い布を出した。
何をするんだろうとぼんやり見ていると、急に前が見えなくなる。


「目隠しプレイ」


いつもより高揚した声で鋼のが笑う。
興奮の色が感じ取れる。


「あ、でもここでしたら本が汚れる」


いきなり手を引かれてどこかへと導かれた。
執務室の引き出しに発火布を入れたままだから、今の鋼のに対抗するには無理があるだろう。





「よし、じゃあここにしよう」


暫く歩くと鋼のが私の手を離した。
ドアに鍵が掛けられる音がする。

背中にヒヤリとした汗が流れた。

思考を巡らせる。

逃げる方法は無いのか。





「さ、お楽しみを始めますか」


ふざけた口調で耳元に囁かれる。

私は緊張感を纏いながら息を呑んだ。






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