とりあえず部下達のいる部屋に足を運ぶ。
そういえば今日も雨だな、と歩きながら窓に目をやった。
湿気を帯びた空気が私を急かしている。

足が速くなる。

嫌な予感がする。

私は異様な胸騒ぎを覚えていた。






■ ■■隠す・隠れる・隠される■■ ■



部屋の扉を開くと、全員がいつもの様に仕事をしていた。
鋼のの姿は無い。
本当にどこに行ってしまったんだろう、軍で思い当たる所と言えばブラックハヤテ号がいるここだけなのに。


「…鋼のを見なかったか?」


近くにいたホークアイ中尉に声をかけた。
彼女は仕事から手を離す様子も無く淡々と答えた。


「軍の図書館じゃないですか?エドワード君は本が好きですし」


あぁ、それは一理ある。
私の部屋で読書をしていて、急に思い立って調べ物をしに行ったのかもしれない。


「ありがとう、助かったよ」


軽く礼を述べて部屋を出る。
いや、出ようと扉の方に体を向けた。

刹那、再び得体の知れない違和感が私の頭をよぎった。


「どうしたんすか、大佐?」


ハボックが私の顔色を伺っている。
私は違和感の正体を探る為に部屋を振り返った。


「…フュリー曹長は、どこに?」


私は誰にともなく尋ねていた。
ハボックは部屋を見回し、私を見る。


「さぁ。ちょっと出てるんじゃないスか?」


いや、それはない。
私はさっき部屋に入った時に確認したのだ。
部屋に全員が揃っている事を。


「いや…」


扉を見やる。
扉の隣りにはハボックが立っていたから、もし今出て行ったのならそういう言い方をするだろう。
私はまた部屋を見回す。唖然として言葉が出なかった。


「…ホークアイ中尉とブレダ少尉はどこへ行った」


言葉が震える。
有り得ない。
今さっきここにいた人間がいない。


私は頭がおかしくなったのだろうか、縋る様な気持ちでハボックを見た。

相変わらずハボックは呑気そうな表情をしている。


私は自分の体から血の気が引いていくのがわかった。







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