鋼のはそれから毎日執務室にやってきている。
本人曰く、「大佐がサボらないか見張るため」だそうだ。
そう言いつつ私の仕事部屋に来ては読書を繰り返す鋼のに、矛盾を感じる。
そして今もいつも通りソファに寝そべって読書の真っ最中だ。
私は時々鋼のを見やりながらも、順調に仕事を進めていた。





■ ■■始まり・終局・道しるべ■■ ■





ふと、変な感覚に襲われて書類から顔を上げる。
扉が開いた。
ハボックが煙草の匂いを漂わせて中に入ってくる。
室内を見回し、私が思いもしていなかった言葉を発した。


「大将、来てないんすか?」


「は?何を言っているんだ、鋼のはそこに…」


ソファに鋼のの姿がない。
ソファだけでなく、他のどの場所にも。
この室内にはいないのだ。
いつの間に出て行ったのだろうか、本はその場に無造作に開かれていた。
読みかけのままという事はトイレだろうか。
それにしてもおかしい。
ついさっきまで私は鋼のを見ていたから、トイレに行ったのならハボックと擦れ違っているはずだ。
突如、言い知れない不安が私を襲った。


「…さぁ。私も鋼のが出て行ったなんて気付かなかったんだ」


とりあえず無難な言葉を選ぶ。
事態はさほど深刻ではないし、私の根拠の無い不安だけでハボックを慌てさせてしまうのは好ましくないと判断したからだ。
ハボックは煙草を一息吸って白い煙を吐き出した。


「…すんません、良かったら一緒に捜してもらえます?」


手元の書類を見る。
今日の分の仕事は少なかったので、今持っているこの書類で仕事は最後だ。

仕事は終わる。

嫌な予感がする。




私はすぐさま仕事を片付けてハボックと共に部屋を出た。




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