僕は善行という名の慈しみを重ね、慈しみという名の哀れみを重ねる。
善行は、全て自分に還る。
その事実が何よりも僕を苦しめて止まない。





■ ■■愛ニ飢エシ『   』■■ ■





穏やかな青年が消えた後には、ただ風が吹いて緩やかにしなる草達が見える。
あれは夢だったのだろうか、そう思わずにはいられないほどに幻想的な空間だった。


しかし、夢ではない。

この場所に立っているこの瞬間が夢なのだから。
これは夢の中の事実だ。



僕は湖に背を向けて歩き始める。
急に空がどんよりと曇ってきた。
何人もの人が通ったのだろう、草が踏み慣らされて道の様になっている。
僕は目的も理由もなくただその道を歩いていく。


暫くすると、道の真ん中に生えている大木が目に入った。
太い幹はとても逞しく、得体の知れない強さを感じさせる。
惹かれる様に近寄っていくと、木の根元に座っている人影があった。
俯いているソレは、汚らしい少年だった。
しかし漆黒の長髪はしっとりと美しい。



「どうしたの?」



僕は力無く幹に凭れた少年の衰弱しきった姿に、ありったけの笑顔と優しさを差し延べる。


少年はもたげていた頭をゆっくりと持ち上げた。
怯えた瞳に暗い影が差す。


少年の求めるような瞳に、僕はすかさず口を開く。


「何が欲しい」



一瞬、彼の瞳が揺らいだ。
僕から目を逸らして言葉は宙を彷徨う。
上手く説明できないのだろうか。


「…温もり」



気が付くと少年は鋭い瞳で僕を見上げていた。
真っ直ぐでいて、寂しそうな。


「…いいよ」



優しく微笑んで抱き締めると、腕の中の少年が微かに微笑んでいて。



ボクハドウシテコンナコトヲシテイルンダロウ。



自分と重ねているのだろうか。
ただ可哀想で見ていられないのか。
彼を満足させることで英雄にでもなったつもりか。



結局は自己満足だ。

世界と自分とを切り離して成せる事は何一つない。
誰かの為にした事であっても、それは結局は自分がそうしたいからしたんじゃないか。





少年を腕に抱きながら、思いを巡らす。
僕にはなかっただろうか、何も見返りを求めないほどの大切なモノが。
自分が幸せになる為に手に入れたいモノが。



少年からそっと手を離して歩き出した。
彼はきっともう大丈夫だろう。
後ろを振り返りもせずに、曇り空の下を進んでいく。


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