鋼のが姿を消した―


原因は弟の錬成。彼の話によると、扉の向こうとやらに行ってしまったらしい。
突然の事でソレを理解することができなかった。
ただ歳月だけが過ぎていく―。




■ ■■咎人■■ ■


久々に私の前に現れた弟は、14歳になっていて。
兄の面影を伴って私の前に立っていた。
髪型から服装まで、少し幼い顔つきと高めの声を除けば、鋼のそのままだ。
自然と弟に手を伸ばし、抱き締める。
弟は拒む事をしなかった。


「僕のせいだから、僕が絶対に兄さんをこっちの世界に連れ戻します」
だから少しの間ガマンしててね、―弟の優しい声が私の耳に響く。
その声は脳の奥へと染み込み、私はいつしか弟の唇を自分の唇で塞いでいた。


「ふ…ッぅ、ん…」


息がつけない程の口付けをすると、頬を染めて鋼のそっくりの反応を示した。
彼は意識してやっているのだろうか。
そう思う程にそっくりで、愛しい―。










僕の罪は決して赦されるものではない、償いの儀式によって僕はさらに罪を重ねる―。


「ぁ…ッあ、大佐ァ…!」

小さい頃、ふざけて兄さんの声真似をした事がある。
驚いたことに、凄く似ていたらしい。
怒った時に出す掠れた声は、僕の一番得意な声だった。
大佐は満足してくれているようだ。声を聞く度に、大きくなる。


「…ッはがねの、って…呼んで…」


一瞬驚いた顔をしたが、大佐はとても愛情の込もった声で兄さんの名前を呼んだ。
目の焦点は僕の向こうの兄さんに向いている。


僕は罪ばかり作る。
兄さんが僕の魂の代償に身体の一部を失った事、僕の身体を取り戻す為に扉の向こうに行ってしまった事、それによって愛し合っていた二人を引き裂いてしまった事。
そんな大切な事を少尉の口から聞かされて初めて知った事。


僕は罪しか作らない。
兄さんの代わりになって大佐を慰めるこの行為も、兄さんにとっては残酷な拷問にしかなりえない。
それでも僕は償いの 儀式を幾度となく重ねる―。









わかっていても止められないのは、私が強欲なのか、君が狡いのか―。


「…もうやめにしないかね、こういう事は」


弟は私の膝の上でシャツのボタンを外していた。手を止めて上目遣いをする。
錯覚だろうか、鋼ののように見えた。


「今更やめれんの?」


「…傷の舐め合いは嫌いだ」


「僕には傷なんてないよ。大佐が兄さんを取り戻すまでのオモチャだから気にしないで」


ニコリと微笑み私の首に腕をまわす。
熱いキスではぐらさかれた彼の心は、一体どうなっているのだろう。
行為は重ねられていく―依存していく。
私は恐ろしくなっていた。
鋼の以上に弟の方を愛してしまうのではないかと―。


それから暫くして、兄が帰ってきた。シャンバラとやらにいたとか。
一度だけ、兄弟と私の3人で話をした。
私はきちんと笑えていただろうか―。


次に兄弟に会ったのは、葬儀の場だった。
死因は、睡眠薬の大量摂取。
遺書には、償いのことば。


「兄さん、大佐。ごめんなさい。罪しか作れなかった僕を赦して―」


何度も囁かれたことばが脳に響いた。
高めの、アルフォンスの声。


―愛してるよ、大佐。


本当の罪人は、私だったのかもしれない―。



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06.02.06