―今でも鮮明に覚えている。

肉体の焼けた匂い、人々の悲鳴、怯えながら逃げる男の恐怖にまみれた瞳。




そして、頭に焼き付いて離れない――深い赤。






■ ■■残灯、無焔影憧憧■■ ■







「…さ!大佐!」



苛立った口調にふと我に還る。

見上げると、そこには赤。




「―あぁ、報告書にサインするんだったね」

穏やかな口調で返す。

赤には目をやらずに、金の瞳を見つめて。



「は?違ぇよ無能、賢者の石の情報だっつの」

金の瞳が冷たい眼差しで見下ろす。

その先に、漆黒の瞳。

「最近ボケたんじゃね?」

苦笑がちに微笑む。





子供らしさがまだ残るその表情。

私は幾分かそれに救われている反面、追い詰められる。



「最近の事ではないのだよ、一種のクセの様なものだ」

柔らかく喋ったが“癖”は強調した。

そう、これはただの癖。


「癖?何だよ、それ」

金の瞳に見つめられ自然と口を開く。






「…君のその赤いコート、見ていると切り裂きたくなる」




あぁ、私はどれほどサディスティックな表情を浮かべているだろう。

どんなに取り繕っても隠すことができない、漆黒の本性。

―その色は本当は赤なのかもしれない。







「…大佐、大丈夫か?」

私が思っていた程には、残酷な顔をしていなかったようだ。

いや、むしろ鋼のの同情を買う表情だったようだ。





「はは、冗談だよ」


軽く笑ってみせる。

同情とか、そういう優しさは私には必要ない。



「赤が好きではないだけだ」


天井を見上げていたが、目の端に意外そうに目を見開く彼が見えた。





「あんたの焔も赤じゃん?」

「あぁ、まぁそうだがね」


ニコリと微笑む。

さっさと情報を差し出し、赤を視界から追い出した。












―赤。己の指から発する焔が街を燃やし尽くした。

赤は空をも染め上げ、人々も赤を浴びる。







例えるなら、瞳の水晶体を真っ赤なフィルムで覆った状態。

私が発した焔で、全てが血に染まる。

―漆黒の煙を携えて。





戦場に、消えかけた焔の揺らぎが残る。

虚しさだけを纏っているその姿は、ちっぽけなものだ。

時々赤いものを見ると、頭に浮かぶ―あの光景。






残灯、焔無ク影憧憧タリ。





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07.02.06