本当に、てめぇは馬鹿だ。
調子に乗って高くなりきったその鼻をへし折ってやろうか、二度と馬鹿なことを言えないように。
■ ■■ホワイト・タナトス■■ ■
「弱いのはてめぇだ」
「……、きみ…死にたいんだ?」
目の前の黒髪が至極不愉快そうに眉を潜める。
本能的にヤバイと悟って唇を噛み締めた。
ドガッ
鈍い衝撃の直後、口の中に血の味が広がる。
まだ気が済まないような顔で見下ろしてくる風紀委員長様はさておき、俺は続けた。
「人間はそのタナトスってのを制御してこその生き物だ」
さんざ雲雀に説明されていい加減俺も言いたいことがあったんだ。
もっともらしい言い訳掲げて結局逃げてんのはてめぇなんだぜ。
「だからてめぇは脳ミソの小せぇ肉食動物だっつーんだ」
「タナトスを制御する理性も、それを他者に向けずに自分に向ける強さも持ってねぇ」
「弱いのはてめぇだよ、ヒバリ」
これだけ言えばすっきりはするがまた殴られるかもしれない。
それでも言いたかった。
最強だと恐れられている我が並森の風紀委員長様が、どうしても精神的な強さを持っているようには思えなかったから。
(俺の偏見かもしれないが、他者を傷つけることを恐れている人の方が精神的に強い気がする)
「…馬鹿にしないでくれる」
自分の躯に振り下ろされると思ったトンファーは元の場所に戻され、俺が予想もしなかった表情で雲雀が口を開く。
「制御する理性を持ってないんじゃない、使わないんだ」
だってその方がスリルがあって人生が楽しいじゃない。
そう紡いだ唇はほんの少し緩やかな弧を描く。
「だから君みたいに弱い奴は心の底から嫌いだよ」
「なっ…」
「でも、そうだね。この僕に向かって“弱い”と言い切った度胸は認めてあげる」
今度はその薄い唇が大きく弧を描き、鋭い目も細められた。
獲物を狩る時の瞳。
「気に入った。君を噛み殺すのはやめておくよ」
「ひば…、」
チュ、と音が響いて。
俺の頭が真っ白なのか俺の視界を埋める雲雀の頬が真っ白なのか。
「…君を飼い殺す」
ボロボロになった俺の躯はこんなに恐ろしくも美しい表情で微笑む風紀委員長様から離れることもできず、ただただ顔がほてって(耳も熱い)絶句するのみだ。
もしこの怪我が治っても、(認めたくはないが)実力の到底敵わないこの相手から、どうやって逃げ切れるだろう。
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08.05.17