4月だというのに何故か冬のように寒い今日、寒いのは嫌いだと言っていたはずの馬鹿がやけに上機嫌だ。





■ ■■しがつばかのひ■■ ■








「…てめぇ、何そんなニヤニヤ笑ってやがんだよ」


「んー?別に」


鼻歌を紡ぎながら店の扉を開けて入っていく山本。
剛に軽く会釈をして俺も後に続いた。








「獄寺、今日泊まってけな?」


「ん、あー」


適当に返事をして目の前の寿司に集中。
まぐろは美味い。
けどぜってーに美味いとは言ってやんねぇ。
(たとえ剛が俺の為に愛情込めて作ってくれたとしても、だ)


「獄寺、美味い?」


「…まじぃ」


「そっか」


もぐもぐもぐ。


ニコニコニコ。


一体なんなんだ、今日は。




「…なあ、獄寺」


「あ?」


「お前ってさ、俺のこと好きだろ」


山本の突拍子もない質問、いや、断言。
さすがに俺もまぐろに向けてた意識を山本に移した。


「は?」


口から出た言葉はやはり呆れの声で、次いで出た言葉は勿論ー、


「てめぇなんか嫌いだっつの」


いつも言ってんじゃねーか、なんて言葉も付け加えて責めるように睨む。
それでも山本はへらへらと笑ったままだった。


「けど獄寺、俺と寝んの好きだろ?」


いつも寝ながら俺にピッタリ寄り添ってくるし、なんて言葉を付け加えて返される。

それはちげーよ、布団がないとかで狭いベッドに男二人で寝かされるから狭くて狭くてそうなるだけだ。


「寝てる時に髪撫でたら甘えるみてーにギュッてくっついてくんだぜ?」


そんなわけねーよ。
つかオイ、なに人の髪勝手に撫でてんだこのヘンタイ。


とにかく頭に浮かぶ罵声を浴びせてやろうと口を開いたら、グラリ、視界が揺らぐ。



気がついたら組み敷かれていて、山本の顔がすぐ目の前にあった。


「ちょ…っ、」


「…獄寺はさ、俺に抱かれてーのな」


もはや疑問系ですらない。
つまりは山本は俺を抱きてぇってことだろうか。


スッと目を細めて頬を撫でられると、射止めるような視線にゾクリと躯が震えた。


「…なぁ、答えて」


「っ…」


逸らさない瞳に逸らせない瞳。
段々と頬に熱が集まってくのがわかる。
まさか俺は山本に惚れてるんだろうか。


「…俺、は、てめぇなんかに抱かれたくねぇ…」


「…へぇ」


「てめぇなんか嫌いだし、」


「うん」


「…、」


俺が喋る度に山本の顔がさっきまでみてーにへらへらと弛んでいくのに気付いて、思わず黙り込むと山本が満足げに目を細める。


「獄寺、今日って何の日?」


「はぁ?今日…は、4月1日…」


はた、と動きを止めた。


「そ、エイプリルフール」


満面の笑みを浮かべた山本。
やられた、と唇を噛んだ。
朝からずっと機嫌が良いのはそういうことだったのか。


「ごくでら、俺とシてぇのな」


「ちが…っ」


「ほら、やっぱり抱いてほしいんだ」


「〜っ、」


駄目だ。
埒があかねぇ。
違うっつったら「そうです」ってことになる。
逆を言わなきゃなんねぇんだ。


「お、俺はてめーに抱かれ…て、ぇ、」


「……え?」


「っ、だから…抱いてほしいんだよ!」


自棄になって言い切った。
こんな台詞一生使わねぇだろうし、正直恥ずかしい。
頬も躯も熱い。


合わせずに逸らしていた視線をゆっくり山本に戻すと、そこにはユデダコみてぇに赤くなった馬鹿がいた。


「ごくでら…それ、反則…///」


蕩けそうな声で、ギュウウと強く腕に包まれる。
苦しい、と言う前に下半身の違和感に気付いた。


「なっ、てめぇ!物騒なモン押し付けんじゃねーよ!離せ!」


「…だめ、我慢できねぇ」


耳元に囁かれる山本の低い声。
飢えた獣のような焦りを含んだ声に不覚にもゾクリと躯が震える。


「…くそ…、今日だけだからな…」








あれ?ちょっと待て。


「抱かれてぇんだろ?」=「抱かれたくねぇよな」


「違う」=「そうです」


……あってんじゃねぇか!!!俺拒否できてるって!!!


「は、っ…ぁ、ん、」


けど今更そんなことに気付いても意味が無い、とでも言うように俺の口からは「ぁん」とか「ふぁ」とか馬鹿みてぇな喘ぎしか出ねぇし。


(明日、ぜってーシバく…!!!!!)



山本に貫かれながら心の中で力いっぱい誓いを立てた。




(エイプリルフールなんか、クソ食らえだ…!!!!!)




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08.04.01