夏の気配がやってきた。
というよりも、
夏が纏わりついてきた。
という表現の方が適しているだろう。
このうだるような暑さに頭がおかしくなりそうだ。
■ ■■蝉の声、君の頭■■ ■
「…ヅラぁ、」
「何だ」
「暑い」
「知るか」
あまりの暑さに会話すらままならず沈黙。
滴る汗のせいで髪や服がピッタリと体にくっついて邪魔くさい。
蝉がミーンミーンと啼く声は更に暑さを助長させている気がする。
彼らは躍起になって俺達を干涸びさせようとしているんじゃないだろうか。
「…ヅラぁ、」
「何だ」
「エアコンは」
「無い」
扇風機がカラカラと音を立てていることがせめてもの救い。
風鈴でもあったらいいのに、と呟いたが銀時には聞こえなかったようだ。
「…ヅラぁ、」
「貴様が買いに行け」
「…まだ何も言ってねっつの」
「顔に書いてある」
「…あっそ、」
アイスを買いに行く元気など毛頭無く、寝そべっている銀時の隣りに同じようにして寝転んだ。
この暑さじゃ何も考えられない。
攘夷のことですら、だ。
実際、攘夷活動なんて人間の三大欲求に抗うこともできないのだ。
三大欲求とはつまり、食事・睡眠・アリ〇ミン…………あれ?
「…ヅラぁ、」
ぼんやり考えていると銀時が覆い被さってきた。
これは重傷だ、暑さにやられて死んだ魚のような目になっている。
「暑い」
「俺のセリフだ」
馬鹿じゃないのか。
ただでさえ暑いのに余計に暑くなる。
甘えるように俺の首元に顔を埋める銀時の髪を、強めに引っ張った。
「…貴様、髪型だけじゃなく頭もおかしくなったのか」
「いやいや、俺のこの髪型は正しいから。むしろヅラ君のそのヅラの方がおかしいから。ヅラ君のヅラ暑苦しいから」
「黙れ天然パーマ」
「ちょっとォ、それ差別だよ、差別?天然パーマに悪い奴はいないのよ?わかってんの?」
「貴様の心がひねくれているから髪までそんなことになるんだ。少しは俺を見習ってだな…」
ポタリ、
「「…………」」
銀時の頬を伝って流れ落ちた汗が俺の頬を濡らした。
その途端、一時だけ忘れていた暑さが甦ってくる。
「…銀時、」
「やだ」
「まだ何も言ってない」
「顔に書いてあんだよ」
「…そうか、」
額に張り付いていた前髪をかき上げて銀時の顔を見つめた。
ああやはり重傷だな、暑さにやられて死んだ魚のような目になっているぞ。
「…ヅラぁ、」
「何だ」
「シない?」
「…知るか」
うだるような暑さの中、まともな思考は溶けてしまっている。
深く絡ませた舌に残り少ない意識を持っていかれそうだ。
蝉の声が煩い。
こんな暑いなか男同士で絡まり合って馬鹿みたいだ。
汗がベタついて気持ち悪い。
「は…銀時…暑い…、死ぬ…」
「悪くねぇだろ」
「何が」
「こんな死に方も」
「…、ああ」
ああ、そうだな。
武士の美学にのっとって腹を切るよりよっぽど美しい散り方に思える。
なんて、俺の頭はもう取り返しがつかない程おかしくなっているようだ。
この銀髪のもじゃもじゃ頭を見過ぎたせいかもしれない。
結局のところ、人間は暑くて死にそうでも三大欲求には敵わなくて。
三大欲求とはつまり、食事・睡眠・アリナ〇ン……………あれ?
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07.07.07