いつの間にか一緒にいて。

いつの間にか認めていて。

いつの間にか心地好い。

てめぇなんか大嫌いだった筈なのに。





■ ■■帰り道に■■ ■





「獄寺、今日俺ん家来る?」

「行・か・ね・ぇ」


呑気な顔で話しかけてくる山本を睨み付けたが、返ってきたのはまたまた呑気な笑顔。


「遠慮すんなって、どうせ暇なんだろ?」

「俺は暇じゃねぇ!」

「さっき『暇だ…』って呟いてたじゃねーか」

「…聞いてたのかよ…」


ついつい舌打ちが出る。

さっきまで学校にいて。
十代目をお家までお送りするという大事な任務があったのだが、ちょうど帰り際に生活指導のセンコーに捕まって断念した。
センコーの長々とした説教をあらかた聞き流し、やっと解放されたと思って下駄箱に行くと山本に出くわしたわけだ。
どうやらいつもより早く部活が終わったらしい。
ちょうど靴を床に叩き付けながら独りで帰る道を想像して、「暇だ…」と呟いていたところに。


「ごくでら?」


と間抜けな声が聞こえてきたのだ。



「なあ、いいじゃん」

「………」

「寿司食わしてやるって」

「………」

「好きなやつ食べていいから」

「…ちっ、しゃーねぇな」

別に寿司が食べたいだけだからな。
山本の家に行きたいとか一緒にいたいとかそういうんじゃないから。
心の中で何度も呟きながら帰り道を歩く。





「…獄寺、」


隣りを歩く山本が遠くを指差した。
そこには茜色の夕焼けが広がっていて。

今まで独りで見てきた景色には無かった色。

鮮やかなオレンジ、朧気な蒼。
正反対の二つの色がお互いを引き立てている。
(それはまるで俺達のようだ、とまでは言わないけれど)


山本と一緒にいるようになってから、色々な物が目に映るようになった。
“美しい”と思えるものができた。
十代目と出会ってから、というのも正しいのだが、やはり二人だけの時に見た景色ほど脳裏に焼き付くのだ。
俺は限り無くこいつにほだされているのかもしれない。


「…獄寺、」

「あ?」

「……………手、繋いでいい?」

「………」


馬鹿じゃねぇの。
馬鹿じゃねぇの。
何そんな照れた顔してんだよ、夕焼けだからわかんねぇけどお前絶対耳まで真っ赤だろ。
恥ずかしい。
死ね。
男同士で手ぇ繋ぐとか訳わかんねぇ。


「…、ごく…」

「黙ってろ」


大方、山本は俺が絶対に拒否すると思ってたんだろう。
一瞬かなり驚いた顔をしていた。
俺だってこんな馬鹿みたいな事、したくねぇ。
俺が山本の手を掴んでんのは前が見えないからだ。
見慣れてない眩しいオレンジの夕焼けに目がくらんだだけ。


「…獄寺、す」

「黙れ」


あんまり山本が嬉しそうな顔をするから、言い訳は止めた。
つくづく俺は山本にほだされているんだと思う。


帰り道を歩きながら、改めて自分がここで得たものの大切さを知った。




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07.07.07