ジリジリジリ。


ミーンミーン。




夏の音がけたたましく耳に流れ込んでくる。
隣にいる獄寺は暑さに弱いらしく、ぐったりと壁に背中を預けていた。






■ ■■ぐるぐる、と■■ ■








白肌を滑り落ちた汗の粒が地面に弾ける。
じわりと染み込んだそれは、俺の腹ン中に、もっと言うとココロに、思いがけない感情を生んだ。


眩しさに目を細めて汗で貼り付く前髪を掻き上げる獄寺は綺麗で、目を離せないでいる。

指に絡まる銀糸がキラキラと光を反射して、自分の中のどろどろした感情と、とても対照的だ。




「…保健室でサボればよかった」




その唇から零れることばも、吐息も。



全て喰らって自分のものにしてぐちゃぐちゃにして。
こんなに暗い感情が自分の中にあることに驚いた。





肌を撫でるように吹く風は獄寺の煙草の匂いを、品の良い控え目な香水の匂いを、漂わせてくる。




「俺は獄寺となら、どこでも、どこにでも」




重ねた手から熱が伝わって。

体中を流れる血液がドクンドクンと脈打った。



ああごめん、獄寺。
俺お前のことめちゃくちゃにしてぇよ。




「…ばーか」




俺の気持ちを知ってか知らずか。
獄寺はこんな時に限って普段滅多に見せない笑顔を見せる。


ふわり、と、人を喰ったように無邪気に笑って。
香水が淡く薫って。
銀糸が風を流れた。







「…俺、獄寺が好きだ」





とても綺麗な獄寺に、とても不釣り合いな感情。
それがしっとりと体に纏わりつく汗と一緒にどろどろと流れ落ちてくれれば、こんな感情に気付かされることもなかったはずなのに。





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08.08.17