煌やかな光に包まれ戯れに酔い痴れる女達。
さあ今宵も甘美な夢をと賑わいを見せる店内に不釣り合いな雰囲気の男が一人。いや、不釣り合いでは無いだろう。輝く金髪を一つに纏め覗く白い首筋に小柄な身体。後ろ姿をぱっと見ただけなら女性かとも思えるが、やはり筋肉質な感じや強い金眼と眉間に皺を寄せ困った様な表情をしている顔を見れば男性だと分かる。では店の者かと思えばそうでも無い。こんな顔で客の相手をするホストはそういないだろう。第一、彼の横にはナンバー1が。

一人で場違いだろ、と眉間に手を寄せ俯き加減で溜め息一つ。
「どうかなさいましたか」
隣に座るのは艶やかな黒髪黒眼を携えた男。
「いや…それよりあんたナンバー1だろ。オレなんかに付いてていいわけ?」
「初めて出会った方とは言葉を交わさないと落ち着かないんですよ」
「へぇ…」
商売だからそんな事言うんだろうがオレこいつとは無理そう、と思っていた最中、御飲み物は?と聞かれ、水、とだけ応えた彼にはなかなか勇気があるだろう。そして初来店にして、ナンバー1に向かってナンバー2はまだかと催促する姿は最早称讃に値する。
「そろそろ来ますよ」

面白い方だ、に退席の言葉を添え人が入れ替わった。

白いスーツに仏頂面の彼同様金髪金眼。ただし入れ替わりで来た彼は短髪で背も高い。得意の王子様スマイルを湛え御指名ありがとうございます、と一礼し腰を下ろした。
「で、オレは何故ここに居るんだ」
「こっちが聞きたいです」
「もしかして怒ってんの」
敬語止めろと思いつつ、ちらりと目を向けると笑っていたが。
「少し」
やっぱり?
特に飲みたくも無い水を一口含んだ。




「……エドワードさん」
瞬時に顔を紅潮させあたふたする兄。
「な、名前を呼ぶな!」
「だって兄さんが兄だって知れたら嫌だから」
「大丈夫だから止めろ!!」
今、ホストである弟が兄を客として接待するという何とも滑稽なシチュエーションが出来上がっている。
「…分かった。兄さん、」
まったくもう、という表情の弟。客の前でこんな顔をしたのは初めてであろう。
「んだよ…」
なんとなく弟の顔を見ない様、水の入ったグラスに視線を落とす。
「どうしてここに居るの」
会話を楽しむ男女や寄り添う男女。このテーブルだけ、ホストクラブらしからぬ雰囲気。

兄がここへ来てしまったのは好奇心からである。勿論ホストクラブに入ってみたかったわけでは無い。頑に場所を教えようとしない弟がどんな所で働いているのか気になったのだ。そこで弟が家を出て行った後、尾行はバレるだろうと判断しホストクラブの密集している所をフラフラと見て回った。店の外に飾られているホスト達の写真を見ながら自分の弟よりカッコイイ奴を探してみるという可愛らしい?事をしたりオヤヂやオネエサンのお誘いを断ったり等している内に、見付けた。

なんばぁつぅ?
アルナンバー2なのかぁ…なんだこの黒髪の野郎。どう見たってウチの弟の方がカッコイイだろ。絶対こいつ気障だ。(まぁ若干アルもだけど)と入口付近でラブ弟っぷりを発揮していたら(勿論心の中で)中に連れ込まれた。

「と言うわけだ。あ、お前よりカッコイイ奴はいなかったぞ」
あれ、なんか素直…と思ったが心に秘めた。
「そう…ありがとう、ホント可愛いひと…」
「だろ?」
少々呆れた顔の弟に対しヘラッと笑ってみせる兄。
「だろ、じゃない。だいたい初来店の人は身分証明書提示しなきゃいけないからそこで断れたでしょ」
「ばっちり提示した」
「…何で?」
「んー何かこう…ノリ?」
もう怒るよ。
弟は兄がここに来た事が大層嫌らしい。
「で、何で自分はここに居るんだとかオカシイだろ!」
声のボリュームは下げている。と言うか周りも結構ウルサイので差し支え無い。
「だって同じトコに座ったのがあのロイって奴だったから」

オレはアルを指名したのに。




わー出た、斜め45度子猫の様な上目使い。ここでそれを使うのは反則だよ兄さん。
しょぼしょぼと萎えていく怒りの芽。
駄目ダメ、心を鬼に!
「とにかく、もう来ちゃダメだからね」
「まぁもう来ねぇけど…何でせんな嫌がるんだよ」
本来ホストクラブは女性が来るのが普通。その為ここに注釈を。此所は男一人からでも入れる。それでも男性客はかなり少ないだろうが。なので入口付近でじっと立ち止まっていた兄は男一人で入るのを躊躇っているのかと勘違いされ店内に連れ込まれた。弟はそれを見越して兄に場所を教えなかったのだが意味無かった様だ。
「あのね兄さん、ここは男も入れちゃうホストクラブだからそっちの気のあるホストも少なからず居るわけで、しかも普通の女性も来るから兄さんみたいにマゾオーラを撒き散らしてる人は女王様気質のお姉サマの目に留まったら狙われちゃうかも知れないし兄さんが僕の兄さんだって知れたら面倒な事になりそうだし口説かれてコロッといっちゃうんじゃないかって心配で…」
「ア、アルさん…」
ベラベラと一人喋っていた所、やや後ろから声を掛けられ長くなりそうだった話は途切れた。声を掛けたのは碧眼に色素の薄い髪の男。
「5番テーブルの方が貴方はまだかって騒がしくて…」
「…分かった」
また来るからね、そう言って席を立った。
さっきの突っ込み所満載な弟の話でなんでアルこんな所でホストやってんだとか考えていたが、碧眼の彼を見てそんな思考は止まった。
「あはは、驚きました?」
穏やかに笑いながら失礼します、と兄の横に腰を下ろす彼に、相変わらず驚いた表情を向ける。
「アル…?」
「アルフォンスです、紛らわしいでしょう?だから大体の人は彼をアル、僕をアルフォンスって呼びます」
「へ…ぇ、世の中狭いな…」
「そうですね。血縁関係も恐らく無いですし」
そりゃそうだ、オレ達二人兄弟だもん。と言う台詞は心の中に吐き、驚いた表情は影を潜めた。
「新入り?」
「ええ、そうですけど…」
「オレも初来店」
少し俯く兄が気になった。
「…じゃあ、どうして分かったんですか?」
「そんなに格好良くて良いヤツそうなのにトップ5に入って無かったからさ」
「…口説いてます?」
目が合って軽く吹いた。




「それはお前の役目だろ」
「ですよね…でも新入りなのに一人でヘルプ任されて凄く緊張してるんですよ」
「客にそんな事話していいのかよ」
けらけら笑い出した兄に御飲み物は?と尋ねると、水、と一言。先程までナンバー2と居たというのにテーブルを見てもボトルを空けた形跡が無いからツワモノだなぁと純粋に思った。プラス、可愛い人だと。

ここに焼き餅焼き一名。兄とは違うテーブルに着き二人の様子を腕に引っ付くマダムにバレない様に窺う。
ああ有り得ないいくら僕に似てるからって何で兄さんあんな楽しそうなのって言うかそろそろ離れてもらえないかなオバサマ時間だよねリシャールでも入れてさっさと帰って下さいもう有り得ない有り得ないだから嫌だったのに…
なんて事決して顔には出さず薔薇さえ引き立て役にする王子様スマイルでオバサマが好みそうな台詞を言ってみせる。

「リシャール入ります」

店内からの視線と手の甲へのキスを受け数分後マダムは満足そうに帰って行った。

「交代して」
「あ、はい」
席を外す碧眼の彼。
「マダム帰ったのかー?」
イタズラっぽく言う兄の隣に腰を下ろした。
「アルフォンス絶対すぐトップ5入ると思うなぁ」
「…気に入った?」
顔は笑っているが相当ご機嫌斜めだとこの場で分かるのは兄くらいだろうか。
「なに機嫌悪くしてんだよ」
「楽しかった?」
「オレは今客。客を楽しませるのがホストの務めだろーが」
「…失礼致しました」
険悪な雰囲気?こんな所で兄弟喧嘩勃発かと思いきやその雰囲気は意外にも早く崩れた。
「大体………オレだって…さ、寂しいし…妬く…」
「へ?」
思わずぽかんとなった。そして時間切れ。またの御来店お待ちしておりますと言われたが恐らくもう来ないし来ても水しか頼まない男なんて店だって来て欲しくは無いだろう。




ホストという仕事は昼夜逆転。コートを脱ぎ寝室へ向かうとベッドに膨らみ。寝ているだろうと思ったが頭まで被った布団からはみ出している金髪の傍で声を掛けた。
「兄さん…ただいま」
膨らみが少し動いた。
「ごめんね」
返事は無かった。
「寂しかったよね」
返事は無い。
「僕すごい子どもだった」
返事が無くても続ける。
兄さんのこと一番理解してると思ってたのに。妬いてたけど恥ずかしいし格好悪いと思って一生懸命隠してたんだよね 。兄さん実は甘えただし。でも態度に出すこと出来なくて。今日は少し素直だったけど…ねぇそんな寂しかった?泣くほど?もうホント兄さんってば…
「うっさい!泣いてねぇ!!」
膨らみの正体が上体を起こし赤い顔を好き勝手喋っていた弟に向けた。と同時に抱き締められる身体。
「兄さんへの愛は毎日伝えてたつもりだったんだけど」
「…悪かったな焼き餅焼きで」
「嬉しいんだよ。それに焼き餅なら僕の方が…」
「ああ、客の相手をするホストとは思えない対応だった」
「ご、ごめんなさい」
「まぁいいけど」
ふぅと小さく息を吐いて弟に凭れた。
「オレいつも妬いてたの我慢してたんだからな」
「うん…」
「今頃どっかの女に笑顔振り撒いてんだろうなーとかキスしてんのかなーとかもしかして抱いてんじゃねぇのとか考えちまって凄い嫌だったんだぞ。しかもしっかりキスしてた(手の甲)」
「兄さん…」
ぎゅっと抱き締められる身体はそのままに、顔を胸に埋めて小さい声で伝えるのは本心。
「笑顔振り撒くのも、口にじゃ無いならキスだって許すから…愛してるって言うのと、だ、抱くのは…オレだけ…にしろ…」
本当は嫌だけど敢えて許そう。
語尾の方は一際小さな声だったがしっかり伝わった。赤面しているであろう兄の顔を見るのは嫌がられると思ったので当たり前だろと髪を撫でた。
「…僕ね、来てくれた人達の相手するとき、兄さんに置き換えてるんだ」
なんか恥ずかしくて嬉しい事言われたな、と一向に顔の赤みは引きそうもない。
「今日仕事休みでしょ?」
「ああ。…どんと来い」
シャワーは後で浴びよう。
頬に手を添えキスをすると躊躇いがちに首に回される腕。愛してるを囁くと同意の言葉を聞かせてくれる。
宵宵甘美な夢を創って暁が来れば鍾愛する人との幸福な現。







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も…萌ェェェェー!!!!(第一声がコレか)
本当にはぁはぁですー好きですー毎日携帯で通ってます。ストーカーです,ハイ。
本当に有難うございましたッ!!!
キリバンの神様が降臨してハッピーでしたvv
……また踏みてぇなぁ……。(ぼそり)