急に意識が覚醒される。
目をあけるとそこには、いつものオレの部屋が広がってた。
外はもう暗くて、時計の針は7時を回っていた。
随分長い間眠ってたみたいや。
オレは額に滲む汗を、震える手でぬぐった。
すると、枕元に置いてあった携帯が大きな音をたててオレを呼ぶ。
鳴り響くのは、アイツの指定着信音。
『ミナト?』
いつもと変わらん凛の声に、思わず安堵の息を漏らす。
オレは大きく一つ深呼吸すると、
何事もなかったかのように、返事をした。
「ん?」
『お前んちの前おんねん、』
「・・・は?」
『お見舞い。』
「、、鍵開いてるから、入ってきて」
電話を切ると同時に、玄関の開く音が聞こえた。
「リン。」
凛の姿が見えると、オレは体をゆっくりと起こす。
どうやら、朝よりは良くなってるみたいや。
「お土産。」
そう言って、凛が手渡してきたのは小さな紙袋。
そこには、学校からの配布物や返却されたテスト、
そして、クラスメート何人かからと思われるメッセージ。
乱雑に書かれた字から、授業中に書いた事が推測できる。
「お前んち行けって、担任から頼まれて、」
「うん。」
「そしたら、木村とかから渡されてん。」
「うん。」
「・・・初めてあんなに喋ったん」
「うん。」
「お前普段休まんから、みんな気にしてた」
「そっか。」
オレがぼんやりとその紙袋を覗き込んでいると、
ふいに額に凛の手があてられていた。
凛の手は冷たくて、
オレの熱にじんわりと沁みこんでくるみたいやった。
「まだ熱あるな」
そう言うと、凛はゴソゴソともう1つの大きな紙袋を取り出す。
「飯食った?」
「ううん。」
「薬は?」
「・・・ううん。」
「やと思った。」
凛は呆れたように小さく笑いながら、
大きな紙袋の中から四角いタッパーを見つけ出した。
蓋を開けると、部屋の中に甘酸っぱい香りが広がる。
「お袋から。」
差し出されたその中には、
すりおろされたリンゴが入っていた。
「寝込んでるって言ったら、無理矢理持たされた」
ふいに、凛とお袋さんのやり取りを想像して、
小さく笑みが零れた。
タッパーいっぱいに入れられたリンゴのすりおろしを、
スプーンで少しすくって、口に含む。
口の中には、リンゴの甘みが広がった。
「薬も買ってきた」
そう言って、凛はベットの傍に市販の風邪薬の箱を置く。
「おいしい、ってお袋さんに伝えといて」
「ただのリンゴやん」
「ええから。」
「覚えとったらな」
リンゴも半分くらい食べ終わり、オレは薬を飲んで横になった。
凛はしばらく、オレの頭をゆっくり撫でてたけれど、
2回ポンポンと叩くと、ふいに立ち上がった。
「何か欲しいもんある?」
「え?」
「飲みもんとか」
「・・・・」
「・・・とりあえず、何か買ってくる」
後ろを向いて、部屋を出ようとした凛の背中が一瞬止まる。
原因は、凛の服の裾を無意識のうちに掴んでいた、
オレの 手。
「ミナト・・・?」
「いやや、」
「・・?」
「ソバにおって・・・。」
小さく呟いたオレのコトバは、
白に飲み込まれるコトなく、凛の元へと届いた。
凛は何にも言わんと、オレの手を強く握って、
ベットの隣に座り込んだ。
何の音も聞こえない部屋の中。
ただ感じるのは、凛の手のひらの温度。
「ミナト、」
「・・・ん?」
「はよ、直せよ」
オレは凛の心地いい声を聞きながら、
ゆっくりとまぶたを閉じた。
他には何もない、ただ真っ白な世界。
どれだけ歩いても、
どれだけ叫んでも、
誰も居ない。
出口のない、一人ぼっちの世界。
だけど、きっと、
もうそんな夢は見ない。
次、目が覚めたトキには、
キミの姿がソバに在る。
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いつもお世話になってる大好きなあおいちゃんから頂いた素敵すぎる小説です。
毎度のことながら惚れ惚れしてしまいます。
あおいちゃん,ありがとうございました!!!